前回のあらすじ 教育施策を考える順番として「理念・ビジョン→経営戦略→組織能力→求める人材像→教育施策」という目的と手段の連鎖構造を学んだタクさんとヒカリちゃん。教育施策は経営戦略から直接導くのではなく、「求める人材像」を明確にすることが出発点。設計は上から下へ、実行は下から上へという双方向の流れを理解し、「まずネジマキ精工の"求める人材像"を考えよう」と決意した。 ▶ 前回の記事はこちら
社長に聞く前に、まず全体像を掴む――営業の基本は「準備」
人事課4日目の朝。組立拓海はスマホを手に、意気込んだ表情でデスクについた。
今日こそ社長にアポ取って、ネジマキ精工のビジョンを聞きに行くで!
ひかりはいつも通り、本に付箋を貼りながら答えた。
で、社長に何を聞くんですか?
"うちの求める人材像って何ですか"って……
拓海の指がスマホの上で止まった。
社長も"求める人材像"なんて言葉使ったことないやろし
何を引き出せば人材像に落とし込めるか。
その準備が先じゃないですか?
拓海はスマホをデスクに置いた。営業時代、初回訪問の前に顧客の情報を徹底的に調べたものだ。相手の事業内容、業界の動向、競合の状況。準備なしにアポに行くなど、営業の世界ではありえない。
まず本で全体像を掴んでから行こう。
アポ前のリサーチは営業の基本や
ひかりが本を開いた。今日は付箋の貼り方にも力が入っている。
求める人材像とは何か――「採り、育て、評価し、報いる」の基盤
ひかりが読み上げた。
拓海は眉を上げた。
採用も評価も処遇も全部入ってるんか
教育施策だけの話じゃないんです。
求める人材像は、すべての人事施策の基盤になるものです
求める人材像がはっきりしてないと、採用のときに"どんな人を採ればええか"も分からへんし、評価のときに"何を評価すればええか"も決められへん。
全部つながってるんか
前回、教育施策の出発点だと学びましたけど、実はもっと広い。
人事施策全体の出発点です
拓海はノートに太字で書いた。
「求める人材像=人事施策すべての基盤。教育だけじゃない」
人材像を検討する3つの観点――経営理念・経営戦略・組織風土
この本では3つの観点から検討すると書いてあります
ひかりがホワイトボードに書き出した。
求める人材像を検討する【3つの観点】
❶ 経営理念(ミッション・ビジョン・バリュー)
→ 会社の存在意義、目指す姿、大切にする価値観
❷ 経営戦略
→ あるべき姿と現状の差を埋める行動計画
❸ 組織風土・文化
→ 社内に根づいている暗黙の価値観や行動様式
★ 3つの観点から検討して、
自社にフィットした人材像を作成する
拓海は腕を組んで図を眺めた。
理念だけやと"立派だけど抽象的"になりそうやし、戦略だけやと"今の環境に合わせた短期的なもの"になりそうやし……
そして組織風土も大事です。
どんなに立派な人材像を掲げても、今の組織の文化とあまりにかけ離れていたら、現場が付いてこない
拓海はネジマキ精工のことを思い浮かべた。経営理念は……社長が朝礼でたまに言っているが、正直あまり覚えていない。経営戦略は……中期計画の発表は聞いたが、自分の営業目標との関連しか気にしていなかった。組織風土は……「先輩の背中を見て覚えろ」「とりあえずやってみろ」が口癖の、職人気質の会社だ。
だから準備が大事なんですよ
パナソニックに学ぶ「求める人材像」のゴールイメージ
ひかりがホワイトボードに書き出した。
【パナソニック:私たちが求める「人」】
● 大きな夢と高い志を持ち "チャレンジし続ける人"
● 何事に対しても努力を惜しまず "やり抜く人"
● 多様性を受入れ価値観を共有する "真のコミュニケーションが出来る人"
拓海は感心したようにうなずいた。
シンプルやけど力強いな。
一つひとつの言葉に"こういう人と一緒に働きたい"って想いが詰まってる感じや
ゴールイメージとして、こういうものをつくるんだな、と掴んでおいてください
そのままネジマキ精工にコピーしても意味ないよな
ひかりが少しだけ目を見開いた。
その通りで、だからこそ自社の3つの観点から検討する必要がある。
パナソニックにはパナソニックの、ネジマキ精工にはネジマキ精工の求める人材像がある
自分たちのオリジナルをつくる。
営業の提案書も同じやな。
テンプレそのままじゃお客さんに刺さらへん
人材像設計の3ステップ――現状分析・人材像設計・育成方針
ひかりがページをめくった。
この本では3つのステップで進めると書いてあります
タクさんがホワイトボードの前に立った。
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求める人材像【設計・活用の3ステップ】
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STEP 1 ▶ 現状分析
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会社の「変わらない部分」(理念・価値観)と
「変化する部分」(戦略・技術・市場環境)を
それぞれ認識し、社員に求める行動を明確にする
↓
STEP 2 ▶ 人材像設計
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求める人材像の「一言定義」を描く
その人物像が持つべきスキル・姿勢を定義する
├ テクニカルスキル(専門技術・業務知識)
├ ベーシックスキル(汎用的なビジネス能力)
└ スタンス(姿勢・マインドセット)
↓
STEP 3 ▶ 人材育成方針の設定
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人材像に見合う人材をどう育てるか?を定める
3つの要素で方針を設定:
├ 学習(知識・スキルをインプットする)
├ 実践(学んだことを業務で試す)
└ 内省(振り返り、次の成長につなげる)
→ 全社に共有・浸透させる
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拓海はペンを置いて、図を見渡した。
この3ステップか。
流れとしてはスッキリしてるな
ただ、それぞれのステップの中身は当然深いです。
たとえばSTEP 1の現状分析だけでも、"変わらない部分"と"変化する部分"をどう見極めるかは簡単じゃない
今日はまず全体の地図を手に入れたと思ってください
だから付箋がこんなことになってるんですよ
ひかりが本を持ち上げた。付箋の量がもはや本の厚みの一部になっていた。
「組織フード」は人材像に関係ない
夕方。拓海はノートを閉じて、満足げにうなずいた。
求める人材像の定義、3つの観点、ゴールイメージ、3ステップの流れ。
これで社長に話を聞きに行く準備ができたな
質問する観点も明確になりました。
"経営理念"と"経営戦略"と"組織風土"の3つについて聞けばいい
明日アポ取ろう。
あと社長の好きな食べ物も聞いとくか
"ネジマキ精工は昼飯にうどん派が多い"とかさ
ひかりが一瞬だけ間を置いた。
ヒカリちゃんもギャグのセンスあるで!
断じて言ってません
ひかりは本で顔を隠したが、その耳がわずかに赤くなっていた。
窓の外は、穏やかな夕暮れ。全体の地図を手に入れた二人は、いよいよネジマキ精工の「求める人材像」をつくる旅に出る。最初のステップは「現状分析」。この会社の"変わらないもの"と"変わるべきもの"を見極める作業が、明日から始まる。
次回予告 「社長、ネジマキ精工が絶対に変えたくないものって何ですか?」――タクさんの質問に、社長が語り始めたのは創業者から受け継いだある"こだわり"だった。現状分析の第一歩、「変わらない部分」と「変化する部分」の見極め方に挑む第5回。ネジマキ精工の理念と文化の棚卸しが始まる。
参考書籍:『研修体系とスキルマップのつくりかた』
この物語はフィクションですが、学びの内容は本書に基づいています。
