「え、一人で作ったサービスで月100万円?」
そんな夢のような話が、今ヨーロッパを中心に現実のものとなっています。
大手IT企業がひしめく中、個人開発者たちがニッチな課題を解決する小さなSaaSプロダクトで、着実に収益を上げているのです。
プログラミングスキルがあれば、あなたもこの「マイクロSaaS」の波に乗れるかもしれません。
今回は、欧州で急成長中のマイクロSaaSムーブメントについて、成功事例を交えながら詳しくご紹介します。
マイクロSaaSとは?定義と2025年の市場規模を解説
そもそもマイクロSaaSって何?
マイクロSaaSとは、文字通り「小さなSaaS(Software as a Service)」のこと。
でも、ただ小さいだけじゃありません。
マイクロSaaSの特徴:
・超ニッチな課題に特化 - 大手が見向きもしない「かゆいところ」に手が届く
・個人または少人数で運営 - 多くは1〜5人、時には完全にソロで運営
・低コスト・高利益率 - 初期投資を抑えて、利益率80%以上も珍しくない
・外部資金不要 - VCからの資金調達なしで自力成長(ブートストラップ)
急成長する市場規模
2025年現在、グローバルのSaaS市場は約4,000億ドル(約60兆円)に達し、2034年には1兆2,500億ドルまで成長すると予測されています。
その中でマイクロSaaSは、まさに「隙間産業」として急成長中。
特に欧州では、MicroConfなどのカンファレンスが毎年開催され、数千人の個人開発者たちが集まって情報交換をしています。
イスタンブール、リスボン、ドブロブニクなど、美しい都市で開催されるこれらのイベントは、単なる技術交流の場を超えて、新しいビジネスチャンスを生み出す場となっているのです。
個人開発者の成功事例3選|月収70万円〜年収1.5億円の実例を詳しく分析
事例1:HelpKit - Notionへの愛から生まれた月70万円ビジネス
主人公: ドミニク・ソーベ(Dominik Sobe)- 自己学習でプログラミングを習得したドイツ人エンジニア
個人的な悩みから(2020年)
ソーベは、人気のワークスペースツール「Notion」の大ファンでした。
朝起きてから寝るまで、タスク管理、メモ、プロジェクト管理、さらには個人の日記まで、すべてをNotionで管理していました。
しかし、彼には一つの悩みがありました。
過去に立ち上げたサービスで、ユーザーからの「これどうやって使うの?」「この機能はどこにあるの?」という問い合わせ対応に追われた経験があったのです。
「Notionみたいに使いやすいツールで、そのままヘルプセンターが作れたら最高なのに...」
既存のヘルプセンターツールを利用しようと思っても、どれも複雑で高額。
月額100ドル以上するものばかりで、個人開発者には手が出ませんでした。
初めての失敗(2019年)
実は、HelpKitの前に別のプロジェクトで大失敗していました。
開発会社に外注して作ったアプリは、完成までに3万4000ドル(約500万円)と6ヶ月を費やしたものの、ユーザーはほとんどつかず。
「開発会社の言うとおりに機能を追加していったら、誰も使わない複雑なアプリになってしまった...」
貯金をほぼ使い果たし、精神的にも追い詰められました。
でも、この失敗から重要な教訓を得ます
「作る前に、本当に需要があるか確認しよう」
アイデアの検証(2021年初頭)
今度は慎重に進めました。
まず、自分と同じ悩みを持つ人がいるか調査をしました。
Redditで質問→「r/Notion」「r/SaaS」などのコミュニティ(Redditでは「サブレディット」と呼ばれる特定のテーマに特化した掲示板)で「Notionをヘルプセンターとして使えたら便利だと思う?」と投稿
Twitterでアンケート→フォロワーに向けて需要調査
インディーハッカーズで議論→同じような課題を感じている開発者を発見
結果は予想以上!
「それ欲しい!」
「いつリリース?」
「ベータ版でもいいから使わせて」
という熱い反応が次々と。
特に、Notionを使っているスタートアップや個人開発者からの反響が大きかったのです。
ノーコードでMVP作成(2021年春)
確信を得たソーベは、今度は手堅く行動しました。
高額な開発費をかける代わりに:
- ZapierとWebflowを使ってプロトタイプを作成(1週間)
- 基本機能のみに絞る:Notionページを読み込んで、きれいなヘルプセンターとして表示するだけ
- 既存のメールリスト400人(過去のプロジェクトで集めた)に案内
すると、初日で20人が有料プランに申し込み!
「シンプルで使いやすい」「まさに探していたもの」という声が届きました。
その後、ユーザーの要望を聞きながら機能を追加:
・カスタムドメイン対応
・検索機能
・アナリティクス
・多言語対応
を進めていきました。
月収70万円の安定収入(2022年〜現在)
2022年10月時点で、90社以上の有料顧客から月5,000ドル(約70万円)の安定収入。
料金プランは:
・スターター:月19ドル
・プロ:月49ドル
・ビジネス:月99ドル
驚くべきは、これをすべて一人で運営していること。
カスタマーサポートも開発も、すべてソーベ一人。
でも、シンプルな製品設計のおかげで、サポートの問い合わせは1日2〜3件程度だそうです。
「大きな会社を作ることが成功じゃない。自分のペースで、好きなことをして生活できることが、僕にとっての成功です」と語るソーベ。
現在もドイツの自宅から、世界中の顧客にサービスを提供し続けています。
事例2:Storemapper - フリーランスの副産物が年1,400万円ビジネスに
主人公: タイラー・トリンガス(Tyler Tringas)- マイクロSaaS界のレジェンド的存在
クライアントの共通ニーズ(2011年〜2012年)
アメリカ人エンジニアのトリンガスは、当時フリーランスとしてShopifyのeコマース企業向けに開発を請け負っていました。
クライアントは、オンラインと実店舗の両方を運営するブランドが中心。
興味深いことに、ほぼすべてのクライアントから同じ要望を受けていました:
「うちの店舗が全国に50店舗あるんだけど、お客さんが自分の郵便番号を入力したら、最寄りの店舗を地図上に表示できるようにしたい」
最初は個別にカスタム開発していましたが、3社目、4社目と同じ要望が続き、「これ、みんな同じもの求めてるじゃん」と気づきます。
シンプルなアイデアの実現(2012年春)
「こんな基本的な機能、Shopifyのアプリストアに既にあるはず」
そう思って探してみたものの、驚いたことに良い解決策が見つかりません。
あるにはあったけど…
・複雑すぎて設定に何時間もかかる
・デザインがダサくてブランドイメージに合わない
・月額200ドル以上と高額
「だったら、シンプルで、きれいで、手頃な価格のものを自分で作ろう」
トリンガスの開発方針はシンプルでした
・15分で設定完了できる簡単さ
・どんなサイトにも合う洗練されたデザイン
・月額19.99ドルの手頃な価格
週末と夜の時間を使って、約2ヶ月で最初のバージョンを完成させました。
機能は最小限で作成。
・CSVファイルで店舗情報をアップロード
・Googleマップと連携
・レスポンシブデザイン対応
口コミで広がる(2012年後半〜2014年)
Storemapperの成長は、まさに「口コミの力」を証明するものでした…
最初の顧客獲得
既存のフリーランスクライアント5社に「新しく作ったツールがあるんだけど、使ってみない?」と提案。
全員が即採用!
雪だるま式の成長
1ヶ月目:5顧客(月収約100ドル)
3ヶ月目:25顧客(月収約500ドル)
6ヶ月目:100顧客(月収約2,000ドル)
1年後:300顧客(月収約6,000ドル)
特別な広告やマーケティングは一切なし。
満足した顧客が、同業者に「Storemapper使ってみて!超簡単だから」と勧めてくれたのです。
転機となった出来事
あるアパレルブランドの大手チェーンが採用したことで、業界内で一気に認知度が上昇。
「あの〇〇ブランドも使ってるツール」として信頼性が高まりました。
安定した収益源とマイクロSaaSの教科書(2015年〜現在)
現在、Storemapperは年間10万ドル以上(約1,400万円)の収益を生み出す安定したビジネスに成長。
顧客数は1,000社を超え、今も着実に増加中です。
トリンガスが実践した成功の秘訣は、
機能を増やさない勇気:「地図表示と店舗検索」という核心機能に集中
価格を上げない:競合が高額化する中、あえて19.99ドルを維持
サポートの自動化:FAQとビデオチュートリアルで問い合わせを最小化
最も印象的なのは、トリンガスがStoremapperを週20時間程度の作業で運営していること。
残りの時間は、新しいプロジェクトや、マイクロSaaSについての情報発信に使っています。
「マイクロSaaSの素晴らしさは、人生をコントロールできること。収入も時間も場所も、すべて自分で決められる」
彼のブログ記事「マイクロSaaS e-book」は、世界中の個人開発者のバイブルとなり、多くの人々をマイクロSaaSの世界に導いています。
事例3:Carrd - 年1億5000万円を生み出すシンプルなウェブサイトビルダー
主人公: AJ(本名非公開)- テキサス在住のウェブ開発者兼デザイナー
自分用のツールから始まった物語(2015年)
AJは、フリーランスのウェブ開発者として活動していましたが、ある悩みを抱えていました。
「クライアントから『とりあえず1ページだけのシンプルなサイトが欲しい』って言われるけど、WordPressは大げさすぎるし、手打ちでHTMLを書くのは時間がかかりすぎる...」
当時の選択肢は極端でした。
既存のサービスを考えると、
WordPress→高機能だけど、1ページサイトには過剰
Wix/Squarespace→月額料金が高く、シンプルなサイトには不要な機能だらけ
手打ちHTML→自由度は高いが、非エンジニアには無理
「シンプルに、美しく、1ページだけのサイトをサクッと作れるツールがあればいいのに」
最初は完全に自分用として、週末プロジェクトで開発を始めました。
目標は明確でした。
ドラッグ&ドロップで直感的に操作
レスポンシブデザイン対応(当時はまだ珍しかった)
余計な機能は一切なし
Product Huntでの爆発的反響(2016年初頭)
完成したツールを数人の友人に見せたところ、「これ公開しないの?絶対需要あるよ!」と背中を押されます。
半信半疑でProduct Hunt(新しいプロダクトを紹介するサイト)に投稿したところ...
初日で1,000以上の投票を獲得!
コメント欄は称賛の嵐
「まさに探していたツール!」
「こんなにシンプルで美しいビルダーは初めて」
「無料でここまでできるの?」
特に反響が大きかったのは、AJが採用したフリーミアムモデル:
無料プラン:3サイトまで作成可能、基本機能すべて利用可
プロプラン:月額9ドル(現在は19ドル)で無制限サイト作成、カスタムドメイン、高度な機能
口コミとSNSでの拡散(2016年〜2018年)
Carrdの成長は、まさに「作品が営業マン」となる好例でした。
バイラル的な広がり
ユーザーが作ったサイトの下部に小さく「Made with Carrd」というリンクが表示される仕組み。
これが絶大な効果を発揮しました。
クリエイターがポートフォリオサイトを作成
TwitterやInstagramでシェア
「このきれいなサイト、どうやって作ったの?」
Carrdへのリンクをクリック
新規ユーザー獲得
数字で見る成長は、
2016年末:1万ユーザー、月収約1,000ドル
2017年末:10万ユーザー、月収約15,000ドル
2018年末:50万ユーザー、月収約50,000ドル
ユーザー層の広がり
最初は個人のポートフォリオサイトが中心でしたが、次第に用途が拡大:
フリーランサーの名刺サイト
イベントの告知ページ
スタートアップのティザーサイト
個人ブランディング
レストランの簡易メニューページ
独自の開発哲学
AJの成功の裏には、明確な開発哲学がありました。
それは「NO」と言う勇気です。
ユーザーから様々な機能要望が寄せられましたが、AJは慎重にその要望を取捨選択しました。
ブログ機能→NO(1ページサイトのコンセプトから外れる)
eコマース機能→NO(複雑になりすぎる)
多言語対応→YES(シンプルさを保ちながら実装可能)
完璧主義との戦い:
最初のバージョンは、今思えば恥ずかしいくらい機能が少なかった。
でも、それで良かった。
ユーザーの声を聞きながら、本当に必要な機能だけを追加していけたから…
年間100万ドル超の収益と変わらぬビジョン(2019年〜現在)
現在、Carrdは年間100万ドル(約1億5000万円)以上の収益を上げる、マイクロSaaSの大成功例となっています。
驚きの運営体制
従業員:AJ一人のみ
オフィス:自宅の一室
労働時間:週30〜40時間
有料ユーザー:10万人以上
総ユーザー数:200万人以上
成功してもブレない姿勢
多くのVCから投資の申し出がありましたが、AJはすべて断っています。
大きくすることが目的じゃない。
ユーザーに愛される、シンプルで美しいツールを提供し続けることが目的。
それで十分な収入が得られているなら、なぜ変える必要がある?
継続的な改善
今もAJは、ユーザーフィードバックを大切にしながら、月1〜2個の新機能を追加。
最近追加された機能は、
AIを使った配色提案
アニメーション効果
フォームビルダー
決済ボタン(StripeやPayPal連携)
しかし、すべての新機能は「シンプルさを損なわない」という大原則のもとで実装されています。
Carrdは、「小さく始めて、ユーザーと共に成長する」というマイクロSaaSの理想形を体現しています。
一人の開発者が、世界中の200万人以上にサービスを提供する。
これこそが、マイクロSaaSの持つ無限の可能性を示す最高の例と言えるでしょう。
マイクロSaaS開発に必要な技術スタック2025年版|初心者向けツールも紹介
技術スタックとは?(まず用語説明)
「技術スタック」という言葉、聞き慣れないかもしれませんね。
簡単に言うと、アプリやウェブサービスを作るために使う技術や道具の組み合わせのことです。
料理に例えると
包丁、まな板、鍋 = 開発ツール
食材 = プログラミング言語
レシピ = フレームワーク
キッチン = サーバーやクラウド
これらを組み合わせて、美味しい料理(=サービス)を作るイメージです!
2025年最新!マイクロSaaS開発の鉄板構成
成功している個人開発者たちは、効率を最優先に技術を選んでいます。
以下が、2025年現在の人気技術スタックです:
フロントエンド
React または Vue.js - 軽量で学習しやすい
TypeScript - バグを減らし、メンテナンスを楽に
Tailwind CSS - 素早く美しいUIを構築
バックエンド
Node.js + Express - JavaScriptで統一できる
Python + Flask/Django - AIや機械学習を組み込みやすい
PostgreSQL - 信頼性の高いデータベース
インフラ・デプロイ
AWS または Google Cloud - スケーラブルで信頼性高い
Vercel または Netlify - フロントエンドの簡単デプロイ
Docker - 環境の一貫性を保つ
ノーコード・ローコードツール(初心者向け)
Bubble - 複雑なロジックも実装可能
Webflow - 美しいデザインのサイトを素早く構築
Xano - バックエンドをノーコードで構築
Zapier - 各種サービスを自動連携
開発期間とコスト
驚くべきことに、多くの成功事例が2〜3ヶ月でMVP(最小限の製品)をリリースしています。
初期投資はというと、
ノーコードの場合:数百ドル(数万円)程度
コーディングする場合:数千ドル(数十万円)程度
サーバー代などの運営コストも月額100ドル以下に抑えているケースがほとんどです。
マイクロSaaSをビジネス化する5つのステップ|価格設定からマーケティングまで
アイデアの見つけ方
「自分が困っていることを解決する」 - これが鉄則です。
他には
RedditやTwitterで頻繁に聞かれる質問をチェック
自分の仕事で繰り返し行う面倒な作業を自動化
既存サービスの「ここがイマイチ」を改善
検証は必須!
お金と時間を無駄にしないために、
ランディングページを作成(1日で完成)
想定顧客にヒアリング(最低10人)
事前登録や仮注文を受ける(需要の確認)
価格設定の極意
多くの個人開発者が陥る罠が「安すぎる価格設定」。
成功者たちのアドバイスとして、
最初は高めに設定し、反応を見て調整
月額10ドル以下は避ける(サポートコストで赤字に)
段階的な値上げを恐れない(既存顧客は据え置きもアリ)
実例として、あるマイクロSaaSは、最初の価格設定を以下のように変更しました。
開始時:$7/$20/$50
6ヶ月後:$10/$25/$50
1年後:$24/$70/$150
マーケティング戦略
予算がない個人開発者でも実践できる方法として、
1. SEO対策
ロングテールキーワードを狙う
解決する課題に関するブログ記事を書く
2. コミュニティマーケティング
Reddit、Facebook Groups、Slackコミュニティで価値提供
売り込みではなく、まず助ける
3. Product Hunt
ローンチ時の認知度向上に最適
事前準備が成功の鍵
4. アフィリエイトプログラム
成功報酬型なのでリスクなし
既存顧客が最高のアフィリエイター
カスタマーサポートの自動化
一人で運営するなら、サポートの効率化は必須です!
充実したFAQとドキュメントで問い合わせを減らす
IntercomやCrispなどのチャットツールを活用
動画チュートリアルで使い方を説明
エラーメッセージをわかりやすく改善
まとめ:今すぐ始められるマイクロSaaSの第一歩
マイクロSaaSの魅力は、誰でも始められることです。
本当に必要なのは、この3つだけ!
✅ 解決したい具体的な課題
✅ 基本的なプログラミングスキル(またはノーコードツール)
✅ 諦めない心
成功者たちの共通点は、「完璧を求めない」こと。
まずは小さく始めて、ユーザーの声を聞きながら改善を重ねていく。
これがマイクロSaaSの王道です。
月収100万円は決して夢物語ではありません。
実際、今回紹介した事例では、多くが14ヶ月程度で月5,000ドル(約70万円)を達成しています。
大企業には真似できない、きめ細やかなサービス。
それがマイクロSaaSの強みです。
あなたも今日から、自分だけのマイクロSaaS開発を始めてみませんか?