学ぶシリーズ 研修体系とスキルマップのつくりかた

求める人材像とは?教育施策を経営戦略から逆算して考える方法【研修体系とスキルマップのつくりかた③】

前回のあらすじ 教育施策がOff-JT(教える)とOJT(育てる)に分かれること、ロミンガーの法則(70:20:10)で人の成長の90%はOJTの領域であることを学んだタクさんとヒカリちゃん。そしてネジマキ精工の人材育成が入社1日研修+人任せOJTという"ほぼゼロ"の状態であることに気づき、「この本を地図にして、研修体系をゼロからつくろう」と決意した。 ▶ 前回の記事はこちら

教育施策は「何を教えるか」から――いきなり研修メニューの落とし穴

人事課3日目の朝。組立拓海は、コンビニで買ったコーヒーを片手に、意気揚々とドアを開けた。

組立拓海(くみたて たくみ)
組立拓海(くみたて たくみ)
ヒカリちゃん、おはよう!
昨日な、帰りの電車で考えてん。研修メニュー、俺なりに案を出してみたで

拓海はノートを広げた。そこには「ビジネスマナー研修」「安全衛生研修」「リーダーシップ研修」「5S研修」……と、思いつく限りの研修名がずらりと並んでいた。

ひかりはそのリストを一瞥し、静かに言った。

タクさん、一つ聞いていいですか。
それ、何のためにやるんですか?
仕上ひかり(しあげ ひかり)
仕上ひかり(しあげ ひかり)
組立拓海(くみたて たくみ)
組立拓海(くみたて たくみ)
何のためって……
社員の成長のためやろ?
じゃあ、どんな社員に成長してほしいんですか?
仕上ひかり(しあげ ひかり)
仕上ひかり(しあげ ひかり)
組立拓海(くみたて たくみ)
組立拓海(くみたて たくみ)
……どんな、って……
優秀な社員?
"優秀な社員"って、具体的にどういう人ですか?
仕上ひかり(しあげ ひかり)
仕上ひかり(しあげ ひかり)

沈黙。拓海はペンを止めた。

組立拓海(くみたて たくみ)
組立拓海(くみたて たくみ)
……あれ、答えられへん
そうですよね。
何を教えるかが決まっていないのに、研修メニューだけ並べても意味がないんです。
これ、昨日の続きを読んでいたら、まさにこのことが書いてありました
仕上ひかり(しあげ ひかり)
仕上ひかり(しあげ ひかり)

拓海はノートの研修リストをじっと見つめ、それからゆっくりとページをめくった。

組立拓海(くみたて たくみ)
組立拓海(くみたて たくみ)
……俺、いきなり手段から考えてもうてたんか
はい。
でも、これはよくある失敗パターンみたいです。
この本にもそう書いてあります
仕上ひかり(しあげ ひかり)
仕上ひかり(しあげ ひかり)

理念→経営戦略→組織能力→教育施策――「目的と手段」の連鎖を理解する

ひかりが本を開き、人事業務の本質について書かれた章を読み上げた。

まず、おさらいです。
企業には"あるべき将来像"がありますよね。
経営理念やビジョンと呼ばれるものです
仕上ひかり(しあげ ひかり)
仕上ひかり(しあげ ひかり)
組立拓海(くみたて たくみ)
組立拓海(くみたて たくみ)
ネジマキ精工で言えば……
"精密加工技術で日本のものづくりを支える"みたいなやつやな。
社長がよく言うてるわ
はい。
でも、その"あるべき将来像"と現状には差がある。
その差を埋めるために策定されるのが経営戦略です。
これは前々回も学びましたよね
仕上ひかり(しあげ ひかり)
仕上ひかり(しあげ ひかり)
組立拓海(くみたて たくみ)
組立拓海(くみたて たくみ)
覚えてるで。
将来のあるべき姿と現状の差を認識して、その差を埋めるための行動計画や
正解です。
で、その経営戦略を実現するために必要な力が組織能力(ケイパビリティ)
組織能力を強化・獲得するには人的資本の質と量を最適化する。
その最適化のための施策の一つが教育施策
仕上ひかり(しあげ ひかり)
仕上ひかり(しあげ ひかり)
組立拓海(くみたて たくみ)
組立拓海(くみたて たくみ)
ここまでは前に学んだ内容やな
そうです。
でも今日、大事なのはここからです。
この流れ、全部つながってるんです。
それぞれが"目的と手段"の関係で結びついている
仕上ひかり(しあげ ひかり)
仕上ひかり(しあげ ひかり)

ひかりがホワイトボードに書き出した。

「目的 → 手段」の連鎖構造

経営理念・ビジョン(あるべき将来像)
↓ これを実現するための【手段】が
経営戦略
↓ これを実現するための【手段】が
組織能力(ケイパビリティ)の強化・獲得
↓ これを実現するための【手段】が
人事施策(教育施策)

★ 上が「目的」、下が「手段」
★ すべてが一本の線でつながっている

組立拓海(くみたて たくみ)
組立拓海(くみたて たくみ)
つまり……
教育施策は、その上にある組織能力のための手段で、組織能力は経営戦略のための手段で、経営戦略は理念を実現するための手段、ってことか
そうです。
全部が目的と手段の関係でつながっている。
この流れを理解せずに人事施策を考えると、戦略の方向性がずれるとこの本には書いてあります
仕上ひかり(しあげ ひかり)
仕上ひかり(しあげ ひかり)

拓海は自分が昨晩書いた研修リストに目を落とした。「ビジネスマナー研修」「5S研修」……どれもネジマキ精工の経営戦略から導いたものではない。なんとなく「あったらよさそう」で並べたものだ。

組立拓海(くみたて たくみ)
組立拓海(くみたて たくみ)
……俺が昨日やったこと、まさにそれやん。
理念もビジョンも考えんと、いきなり研修メニューを並べた。
そりゃズレるわ
気づけたなら大丈夫です。
これから正しい順番で考えていきましょう
仕上ひかり(しあげ ひかり)
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経営戦略から直接教育を考えない――「求める人材像」というワンクッション

ひかりがページをめくった。

で、ここからがさらに重要なんですけど。
教育施策の目的は、最終的には経営戦略を実現することですよね
仕上ひかり(しあげ ひかり)
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組立拓海(くみたて たくみ)
組立拓海(くみたて たくみ)
さっきの図の通りやな
でも、教育はあくまで人材に対して、経験やスキル、知識を与えるものでしかないんです
仕上ひかり(しあげ ひかり)
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拓海はうなずいた。

組立拓海(くみたて たくみ)
組立拓海(くみたて たくみ)
そりゃそうやな。
研修受けただけで売上は上がらへん。
営業時代にどんだけ研修受けても、実際にお客さんのところ行って提案して、行動に移して初めて結果が出たもんな
そうなんです。
教育によってスキルや知識を身につけた人材が、正しく必要な行動をとることで、はじめて経営戦略の実現に向かう。
つまり、教育と経営戦略の実現の間には、"人材の行動"というワンクッションがある
仕上ひかり(しあげ ひかり)
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組立拓海(くみたて たくみ)
組立拓海(くみたて たくみ)
なるほど……
教育→即・戦略実現、じゃなくて、教育→人材が行動する→戦略が実現する、って二段階なんか
だから、経営戦略から直接"どんな教育施策がいいか"を考えるのは無理があるとこの本では指摘しています
仕上ひかり(しあげ ひかり)
仕上ひかり(しあげ ひかり)

拓海はペンを止めた。

組立拓海(くみたて たくみ)
組立拓海(くみたて たくみ)
ほな、どうやって考えたらええんや?
こう分解していくんです。
経営戦略→それに必要な組織能力→組織を構成する人材→求める人材像、と
仕上ひかり(しあげ ひかり)
仕上ひかり(しあげ ひかり)
組立拓海(くみたて たくみ)
組立拓海(くみたて たくみ)
求める人材像……
はい。
つまり教育施策の目的は、"求める人材像"を育成することに落とし込まれるんです。
経営戦略という抽象的なゴールを、"こういう人材がほしい"という具体的なイメージにまで分解する。
それが出発点です
仕上ひかり(しあげ ひかり)
仕上ひかり(しあげ ひかり)

拓海は背もたれに体を預けて、天井を見上げた。そして、ぽつりと言った。

組立拓海(くみたて たくみ)
組立拓海(くみたて たくみ)
……分かってきた。
求める人材像があって、その人材が集まって組織として行動したとき、必要な組織能力が形成されて、結果として経営戦略が実現されるんやな
そうです。
求める人材が組織として行動したときに、必要な組織能力が形成され、経営戦略が実現される
この順番が大事なんです
仕上ひかり(しあげ ひかり)
仕上ひかり(しあげ ひかり)
組立拓海(くみたて たくみ)
組立拓海(くみたて たくみ)
つまり俺らの仕事は、"求める人材像"を育てることなんか!

拓海の目が光った。営業時代にターゲット顧客のペルソナを考えたように、人事ではまず「どんな人材を育てるのか」を明確にする。それが全ての出発点だ。

組立拓海(くみたて たくみ)
組立拓海(くみたて たくみ)
……ほな、うちのネジマキ精工の"求める人材像"って何やろ?

ひかりは本を閉じて、まっすぐ拓海を見た。

それが、まさにこれから私たちが考えなければいけないことですね
仕上ひかり(しあげ ひかり)
仕上ひかり(しあげ ひかり)

施策は「上から下」で考え、「下から上」で実行する――人事の全体像

拓海がホワイトボードの前に立った。

組立拓海(くみたて たくみ)
組立拓海(くみたて たくみ)
ちょっと整理させてくれ。
今日学んだことを図にまとめたい

拓海が描いた図はこうだった。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
  ★ 施策を【考える】流れ(上から下へ)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

  経営理念・ビジョン
      ↓
  経営戦略
      ↓
  組織能力(← 求める人材像で具体化)
      ↓
  人事施策(教育施策)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
  ★ 施策を【実行する】流れ(下から上へ)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

  人事施策(教育施策)
      ↑
  組織能力(← 求める人材像の育成)
      ↑
  経営戦略
      ↑
  経営理念・ビジョン

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
  設計は上→下  /  実行は下→上
  この双方向が人事の仕事の全体像
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
組立拓海(くみたて たくみ)
組立拓海(くみたて たくみ)
設計するときは上から考える。
理念があって、戦略があって、必要な組織能力があって、そこから教育施策を導く。
でも実行するときは逆や。
教育施策で人を育てて、育った人材が組織能力を形成して、経営戦略が実現して、最終的に理念に近づく

ひかりがうなずいた。

下から積み上げていくんですね
仕上ひかり(しあげ ひかり)
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組立拓海(くみたて たくみ)
組立拓海(くみたて たくみ)
そうや。
営業計画も同じやったわ。
年間目標は上から降りてくるけど、実際に達成するのは現場の日々の行動の積み上げや。
設計は上から、実行は下から。
人事もまったく同じ構造なんやな
その感覚が人事でも使えるのは、タクさんの強みですね
仕上ひかり(しあげ ひかり)
仕上ひかり(しあげ ひかり)
組立拓海(くみたて たくみ)
組立拓海(くみたて たくみ)
お、また褒められた。
今日二回目やで
事実を述べているだけです
仕上ひかり(しあげ ひかり)
仕上ひかり(しあげ ひかり)
組立拓海(くみたて たくみ)
組立拓海(くみたて たくみ)
ヒカリちゃん、毎回それで済ますのやめてくれへん?

「求めるギャグ王」は誰も求めてない

夕方。今日の学びをノートにまとめ終えた拓海が、ぐっと伸びをした。

組立拓海(くみたて たくみ)
組立拓海(くみたて たくみ)
よっしゃ。
今日ではっきりしたな。
俺らがまずやるべきことは、ネジマキ精工の"求める人材像"を明確にすることや。
そのためには会社の理念やビジョン、経営戦略を知らなあかん
そうですね。
社長や経営層の考えを聞くところから始める必要があります
仕上ひかり(しあげ ひかり)
仕上ひかり(しあげ ひかり)
組立拓海(くみたて たくみ)
組立拓海(くみたて たくみ)
ほな、社長にアポ取って聞きにいこう。
"ネジマキ精工はどこを目指してるんですか"って
いいと思います。
でもその前に――
仕上ひかり(しあげ ひかり)
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組立拓海(くみたて たくみ)
組立拓海(くみたて たくみ)
なんや?
タクさん自身も"求める人材像"に近づく努力が必要ですよ?
仕上ひかり(しあげ ひかり)
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組立拓海(くみたて たくみ)
組立拓海(くみたて たくみ)
……耳が痛いわ。
でもまあ、俺は俺なりの"求める人材像"を目指すわ
どんな人材像ですか?
仕上ひかり(しあげ ひかり)
仕上ひかり(しあげ ひかり)

拓海はニヤリと笑った。

組立拓海(くみたて たくみ)
組立拓海(くみたて たくみ)
"求めるギャグ王"や。
社内の笑い声を10倍にする男――
誰もそんな人材求めてません
仕上ひかり(しあげ ひかり)
仕上ひかり(しあげ ひかり)
組立拓海(くみたて たくみ)
組立拓海(くみたて たくみ)
マジで?
組織の潤滑油的なポジションやと思うねんけど
潤滑油は必要ですけど、ギャグ王は経営戦略のどこにも出てきません
仕上ひかり(しあげ ひかり)
仕上ひかり(しあげ ひかり)
組立拓海(くみたて たくみ)
組立拓海(くみたて たくみ)
……どうもすいません

ひかりは小さくため息をつき、それから、もう慣れたように軽く笑った。

窓の外では夕焼けが広がっている。明日、二人はいよいよ社長室のドアを叩く。ネジマキ精工の理念やビジョンを聞き、そこから逆算して「求める人材像」を描く――。人事課の凸凹コンビの挑戦は、いよいよ本丸に差しかかる。

次回予告 「社長、ネジマキ精工は10年後、どうなっていたいですか?」――タクさんの直球の質問に、社長は何と答えるのか。経営理念とビジョンから逆算して「求める人材像」を具体的に描く第4回。「理念は額に飾るもんちゃう。人を育てる土台にするもんや」――社長の言葉に、二人の目の色が変わる。


 

参考書籍:『研修体系とスキルマップのつくりかた
この物語はフィクションですが、学びの内容は本書に基づいています。

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